2019年10月1日(火)「300年後に生き残るアートを考えるとき」

コース:アート・パートナーズ
講師:山口桂(クリスティーズ・ジャパン代表取締役社長/クリスティーズ シニア・ヴァイス・プレジデント及び東洋美術部門インターナショナル・ディレクター)
日時:10月1日(火)19:00-21:00
場所:代官山AITルーム

 
第7回目となるアート・パートナーズでは、クリスティーズ・ジャパン代表取締役社長の山口桂氏を招き、オークショニアの視点から古美術と現代美術を比較しつつ、アート業界の現状などをレクチャーしていただきました。

 
山口桂さんは1963年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。広告代理店勤務の後、1994年(株)クリスティーズ・ジャパン入社。同社副社長を経て、2000年よりクリスティーズ・ニューヨーク日本・韓国美術部ヴァイス・プレジデント/シニア・スペシャリスト(*)として勤務。様々な役職を歴任した後、2017年より日本在住となり、翌年10月よりジャパン代表兼任しています。

 
*スペシャリスト
オークション業界における「スペシャリスト」とは、美術品の鑑定と査定ができる人を指します。オークションに出品する作品を探してくるための目と見識が必要になります。

 

クリスティーズでのオークションの様子を表したスライド写真

 
◼︎クリスティーズと最近のオークション事情
「クリスティーズ」は、1766年に創業した世界で最も長い歴史を誇る美術品オークションハウス。現在ロンドン、ニューヨーク、香港を中心に、世界各地で年間約350回のオークションを開催し、美術品をはじめ、宝石、時計、家具など80種類以上に及ぶ分野を取り扱っています。また、オークションのみならず、スペシャリストによる作品査定やプライベート・セールの仲介など幅広い事業を展開しています。

 
同社とともによく名前を耳にする「サザビーズ」も18世紀ロンドンで誕生したオークションハウスで、この二つが世界で大手のオークションハウスです。

 
近年話題になったオークションレコードを以下紹介します。

 
◯美術品史上最高価格で落札され、話題に(2017年11月)
レオナルド・ダ・ヴィンチ作《救世主》
$450,312,500

 
◯現存作家における史上最高価格を今年記録(2019年5月)
ジェフ・クーンズ《ラビット》
$91,075,000

 
◯日本美術品での世界最高価格(2008年3月)
伝運慶作《木造大日如来坐像》
$14,300,000

 

近年、X線技術により、木造大日如来坐像には何かが内蔵されていることがわかった

 
現代美術とデザインに特化した「フィリップス」も上にあげた2大オークションハウスに続く存在として有名です。また最近は、「SBIアートオークション」が開催する「Harajuku Auction」で、従来の大手の競売では扱われることが少なかった作品が数多く出品され、また買い手もストリート系のリッチな層が新しく出てきました。業界の新たな動きとして、とても興味深いといいます。
https://www.sbiartauction.co.jp/auction/catalogue/84

 
オンラインも盛り上がりを見せており、オークションは近年様々な層が参入できるものになってきたと言えるでしょう。

 
◼︎オークションとプライベート・セール
オークションは公に開かれた状態で作品が売り買いされるのに対し、「プライベート・セール」では、オークション会社が仲介して個人から個人へと作品が売買されます。
一般的にプライベート・セールでは作品の値段などが公開されません。従って、プライベート・セールで売りたい(または買いたい)という層が一定数存在します。
最近話題になったプライベート・セールは、若冲など貴重な作品を多数含む「プライス・コレクション」(190点)を出光美術館が買い取った例があげられます。

 
◼︎来歴について
作品が売買される際にとても重要になるのが、その作品の来歴(作者や歴代の所有者、展覧会出品歴など)です。来歴不明の作品がオークションへ出品されることもありますが、その場合ナチスによる略奪絵画(*)などの盗品でないか慎重に見極めなくてはなりません。

 
*ナチスによる略奪絵画
1930~40年代にかけて、ナチスは「退廃的」とみなした美術品を画廊や個人から大量に押収しました。これらの物品のほとんどは、戦後に回収されましたが、その多くは未だ失われています。正当な所有者やその家族、またはそれぞれの国に返却すべく、現在もナチスの略奪品を特定する国際的な努力が行われています。

 
このような歴史的な事象を踏まえて、今後の対策として、クリスティーズではブロックチェーンなどのテクノロジーを活用していこうという話が出ています。ただ、今後出てくる作品に関してはしっかりと来歴を記録することができますが、昔の作品についてどのように対応していくか、などまだ課題も多いそうです。

 
◼︎「古美術⇔現代美術」を考えるヒント
村上隆や杉本博司、ダン・フレヴィン、スティーヴ・ジョブズなど、現代美術作家やIT業界など最先端分野で活躍する人々の中に古美術を好んで収集する人が多いといいます。
古美術と現代美術の不思議な相互関係が見えてきそうです。

 
◼︎どんな古美術も、制作された時は全て「現代美術」。時代を超えて残るものとは何か。
山口さんは、千利休や伊勢神宮、樂吉左衛門の革新性を例に挙げながら、芸術における「伝統」とは「革新の連続」であるとお話ししました。

 
現代の我々が美術館などで観る「古き良き物」とは、「作られた時の現代性が失われていない、時を越えてフレッシュなモノ」、つまり「古くて、新しい」ものです。「伝統」は、形を変えずに守り伝えるだけでなく、時代に合わせてマイナーチェンジさせていくことが大事なのです。

 
トレンドを追うファッションのように、すぐに忘れられてしまうアートがある一方で、何百年も残り後世に伝えられていく物があるということは、人類が共通して持っている「美の琴線」のようなものがあるのではないでしょうか。

 
今回は、一般的に敷居が高く感じられる華やかなオークションの世界について、ニュースで話題になった落札作品はもちろん、業界の事情まで、様々なお話しをしていただきました。古美術と現代美術、両方に精通した山口さんならではレクチャーだったかと思います。
最後に“(見にいく行為や苦労も含めた)本物を見る大事さ”について言及していましたが、「本物を見続けた人の目は絶対に違うはず」という言葉を聞いて、なんだか勇気付けられた気がしました。

 
小山望実

 
参考:
MAD掲載の山口氏のプロフィール

G. アート・パートナーズ

 
(株)クリスティーズ・ジャパン 公式ウェブサイト
https://www.christies.com/exhibitions/japan/

 
ナチス略奪絵画を大量所有する男性が死去
https://www.cnn.co.jp/world/35047571.html

 
ナチス・ドイツによる略奪
https://ja.wikipedia.org/wiki/ナチス・ドイツによる略奪

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