MADでは、アートを積極的に使い、アートと丁寧に向き合うことで、“能動的に思考する姿勢”を身につけることを目指しています。
私は、今の世界や社会がいかにグローバルな経済のルールの元に動いているかということについて、常に頭のどこかで意識しています。「ネオリベラリズム」とも呼ばれている時代において、アートや生活、コミュニティのあり方はもちろん、私たちの想像力や思考そのものまでもが影響を受けていると言わざるを得ません。ちょっと大きなお話ですが、いろいろな場所やもの、経験が同質になっている気もします。対照的にアートは本来、複雑で感覚的で、人間であることの謎や素晴らしさを拡張してくれる一つの道具だとも思います。
「アートはいま、どのようなものになっているか」「アートをどのように使うことができるか」という問いに対して、社会の中で実践していこうとする動きが増えていることも興味深いことです。そこには、美術館やアート施設だけではなく、生活に根ざした新たな共同体づくりやコレクティヴの実践、また、社会の中で「弱い」立場とされる人たちとの協働やサステイナブルな生き方に対する思い、実験的なスピリチュアリティやシニシズムに対する態度、あるいは新しいビジネス・モデルの構築など、様々なビジョンが存在します。
このような考えから、MADでは「ホリスティック(全体性=健やかに生きること、ものごとを癒すこと)」なアプローチを参照したいと思います。この動きは、新しいことではなく「モンテ・ヴェリタ」の実験的集団、アメリカ西海岸のカウンターカルチャーの聖地の「エサレン」や柳宗悦の「民藝運動」など、20世紀の初めに既に存在していました。時代や技術は大きく変わったとしても、100年前の先駆的なアーティストや思想家たちと丁寧にもう一度向き合うと、いまを生きることの道しるべも見えてくる気がします。
私たちが生きることと直結していて、時間感覚や倫理観、意識そのものを少しだけ揺るがし、より大きな視点を感じさせるアートをともに学びませんか?
東京生まれ。イギリスで教育を受ける。学士では、国際政治学。修士では、神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)。博士号では、『アウトサイダー・アート』(1972年)の執筆者ロジャー・カーディナルに師事し美術史を学ぶ。1998年より、インディペンデント・キュレーターとして活動。「横浜トリエンナーレ2001」アシスタント・キュレーター、第一回「シンガポール・ビエンナーレ 2006」キュレーターを務める。2003年より国内外の美術大学にて非常勤講師として教鞭をとる。長野県佐久市に移住後、2013年に実験的なハウスミュージアム「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。また、国内初の英国式「チャトニー」(チャツネ)を生産・販売している。興味は美術史、絵画、変性意識状態、オーディオ鑑賞、踊り、山。AIT設立メンバーの一人。