2019年7月5日(金)「ストリート・アートのいま Street Art Deluxe」

コース:マガジン・リダックス
講師:青木彬(キュレーター / dear Meスタッフ)、大隈理恵(AITプロジェクト・マネジャー)
日時:7月5日(金)19:00-21:00
場所:代官山AITルーム

 
本講義は、昨年からはじまっているMADのプログラムで、都市とアートの関係性や、ストリートから生まれる表現や活動について、さまざまな側面から東京を多元的にとらえるツアー・プログラム「Unknown Tokyo」の関連レクチャーで、講師の2人が培った知識や経験から、あらためてストリートアートについて考え議論する回でした。
 

 

 
ストリート・アートとは? 
ストリート・アートに明確な定義はなく、グラフィティや路上(公共空間)で表現されるアート、そしてストリート的な感性を持つアートを指します。また、1970年代のニューヨーク・サウスブロンクスのストリートから生まれたヒップホップカルチャーが起点とも言われています。ヒップホップの4大要素は、ラップ、グラフィティ、DJとブレイクダンスとされ、現在は菜食主義者、ファッションにも展開されています。

 
ストリート・アートの歴史 
サウスブロンクス(South Bronx)はニューヨークの南に位置します。昔は、窃盗、火事、殺人が多く、最も危険で治安の悪い街とされていました。その背景には、1960年代にロバート・モーゼスによる大規模な都市開発と、移民法の改正で急増した移民たちを、マンハッタンから一掃し、その移住先をサウスブロンクスに推し進めた計画がありました。また、ベトナム戦争が終わらない戦争として翳りを見せはじめた1965年頃には、ヒッピーによる反戦運動やフラワー・ムーブメント、人種差別の解消を求める公民権運動も同時代に起こり、市民は社会への不満を暴力ではない形で権力に抗う行動を取るようになります。

 
サウスブロンクスで生まれたグラフィティのルーツには、街のブロックごとに存在したギャングのグループが縄張りを争い、グループの主張をするために名前と番地を「Tagging」することからはじまったとされます。ギャングたちが銃ではなく、スプレーを持ち自身を主張することは、こうした時代背景があったからかもしれません。

 
グラフィティの特徴
グラフィティは「落書き」を意味し、イタリア語の「引っかき傷」が語源です。
グラフィティのアーティストたちは、「落書き」ではなく、敬意を込めてライターと呼ばれます。また、グラフィティの要素として、Easily容易性、Repeatability反復性、Expansion拡散性、Anonymous匿名性が重要であることを説き、特徴的なアーティストとして、TAKI 183やRammellzee、キース・ヘリングやバスキアが紹介されました。

 
レクチャーでは、ほかにもストリート・アートとアートの違いや、アートの重要な要素であるコンテクストを示した批評家ダニエル・フェラールによる系統図「GRAFFITI AND STREET ART」について、またストリートのバンダリズム(器物損壊や迷惑行為とされる景観破壊)と法について、国内外の事例をあげながら、表現の自由について議論しました。

 

 
ストリートで活躍しているアーティストたち
近年ストリートを舞台に表現しているアーティストたちは、「都市を身体化するストリートの感性」を持ち合わせているといえます。
例えば、記号的な作品だけではなく、身体的な一面、都市との関わりを持つ点が特徴として挙げられるUTAH & ETHERは、都市をくまなく観察し、制作のプロセスがドキュメントされています。ほかにも、バルセロナで活躍するMarcher Arrantは、とにかく街を歩き、その冒険しているプロセスやリサーチした記録をSNSやWEBでアップしています。

 
また、ストリート的な感性をコンテンポラリー・アートのコンテクストに則したアーティストとして、SIDE COREやmi-ri meter、Aokid、中島晴矢、FL田SHが紹介されました。
展覧会では、2012年にSIDE COREがキュレーションを行った「日本美術とストリートの感性」展(@BA-TSU ART GALLERY)の中で、「ストリートの感性」の系譜が言及されています。http://sidecore.net/2017/01/24/sensibilityofthestreet/
 

 

 
最後に、ストリート・アートの違う側面として、1960年代野外美術展を始まりとし、1950-70年代アンデパンダン展、1980-90年代サイトスペシフィック、1990年代以降の企業メセナなどの文化環境の変化がもたらした日本型アートプロジェクトは、ボランティアを集いプロセスを重視し、仲間が集うプロジェクトベースの場の形成とも密接な関わりがあると言えるではないかと、講師独自の視点から、ストリート・アートの幅広い可能性を示唆しました。

 
王聖美

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