2019年6月4日(火)「アーティストを支え、価値を伝えるということ」

コース:アート・パートナーズ
講師:中尾浩治(合同会社アート・マネジメント・しまなみ代表)
日時:6月4日(火)19:00-21:00 場所:代官山AITルーム

 
アート界を牽引するコレクターや美術館館長、経営者と語り社交を楽しみながら、アートの価値やパトロナージュの新しい可能性を探る「アート・パートナーズ」コース。今回は、「アーティストを支え、価値を伝えること」と題し、 アート・マネジメント・しまなみ代表 中尾浩治さんのお話を伺いました。

 
◆「テルモ生命科学芸術財団 現代美術助成」から「ひろしまトリエンナーレ」まで。多岐に渡るアーティスト支援活動。
2020年、広島では初となる大規模な現代美術の国際展「ひろしまトリエンナーレ2020 in BINGO」の開催が決定し、中尾さんはその総合ディレクターを務めています。きっかけとなったのは、「岡山ではストライプインターナショナルの石川康晴さんが総合プロデューサーを務める『岡山芸術交流』、香川ではベネッセの福武總一郎氏が総合プロデューサーを務める『瀬戸内国際芸術祭』が開催される中、(中尾さんの出身地である)広島では、まだそうした国際展が行われていない。」とコレクター仲間に声をかけられたことだった、と言います。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/78/hirotori.html

 
2016年まで医療機器メーカーのテルモの会長を務め、その間に「テルモ生命科学振興財団」でアーティストの展覧会に関わる費用を助成する「現代美術助成」の立ち上げ、2012年には尾道市にある離島・百島に、アーティスト・柳幸典氏のアトリエ兼ギャラリースペース「アートベース百島」の設立に尽力し、さらに、2017年には、ひろしまトリエンナーレ2020の開催に向けて、試験的に「海と山のアート回廊」をプロデューサーとして手がけられています。
http://artbasemomoshima.jp/

 
一方で、アートコレクターでもある中尾さんは、2019年5月には故郷である尾道の商店街にご自身のコレクションを展示するCafe&Bar「ウルトラ」をオープンしました。
中尾さんは、なぜこのような多岐にわたる活動をされているのでしょうか?

 

 
◆「アーティストを支える」こととは?
中尾さんがコレクションを始めるきっかけとなったのは、サラリーマン時代にスウェーデンのギャラリーで見かけたガラスの作品だったといいます。その後、NY在籍時には現地のアーティストらと交流をするようになり、帰国後、ギャラリーで見た作品に興味を持ったことをきっかけとして、柳幸典氏や、折元立身氏といったアーティスト達と交流をするようになったそうです。
中尾さんの考える「アーティストを支える」事とは、第一には「作品を購入する」ことであり、それに加えて「資金的な支援」もあるといいます。一方で、アーティストによっては、愚痴を聞いたり、飲みに行ったり、世の中のことについて意見交換したりといった事もあるそうです。
「作品を購入する」以外にも様々な支え方があるとする一方で、「作品に興味を持つ」ことは必要条件であるといいます。レクチャーの中では、ご自身のコレクション作品について熱心に解説くださるなど、”人生をかけて”作品制作を続けているアーティストに対しての強いリスペクトも感じられました。
 

 
◆アーティスト・作品の「価値を高める」ために。
アーティストの活動を支える一方で、中尾さんは「アーティストと作品の文化的価値と経済的価値を高める」ことも大切だといいます。
バブル崩壊後、日本国内には良い現代アート作品が多く存在するにも関わらず、発信が不足していたために世界では知られていない、という問題意識を持っているそうです。
こうしたなか、現在は、日本の現代アートの「海外発信プロジェクト」を立ち上げ、「日本と海外の美術館のキュレーターネットワークをつくる」「それをベースとし、海外で日本の90年代の企画展を開催する」「日本の文献を英訳する、日本美術の通史をつくる」といった活動を行われているそうです。
企業メセナを主導する立場や、芸術祭の総合ディレクター、コレクター、そして、アーティストの友人としてなど、様々な立場からの多面的なお話を伺うことができたレクチャーでした。

 
高砂理恵

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