コース:アートの有用性
講師:保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)
日時:5月9日(木)19:00-21:00 場所:代官山AITルーム
「アウトサイド」という言葉をキーワードにアートの歴史を捉え直しながら、アートの可能性や有用性について考える「アートの有用性」コース。「アール・ブリュット」の全体像について学んだ前回に続き、今回は、日本で独自に発展した「アール・ブリュット」について、国内のアール・ブリュット美術館の設立にも関わられてきた、保坂健二朗さん(東京国立近代美術館主任研究員)のお話を伺いました。
■アール・ブリュットとは?
まずは、西洋のアール・ブリュット / アウトサイダー・アートについて概観しました。1945年にジャン・デビュッフェによって提唱されたアール・ブリュット(生の芸術)は、精神疾患患者、知的障害者、占い師、霊媒師、降霊術師、独居老人など、社会からなんらかの形で距離を置いた人たちによってつくられた、「作り手」に特色のあるアートとされています。しかしながら、前回のロジャーさんのレクチャーと同様に、保坂さんも「明確な定義付けは難しい」といいます。
■日本のアール・ブリュットの歴史
続いて、時系列で「日本のアール・ブリュット」に関わる出来事を追っていきました。
関東大震災の起こった1923年に、ハンス・プリンツホルンによる「精神病患者の芸術性」(1922)の一部が、雑誌「みづゑ」で引用され、日本に「アール・ブリュット」と呼びうる作品の概念が入ってきたといいます。
そして戦後、「エイブルアート」や「無垢の芸術」、「ボーダレスアート」など、日本独自の名称とともに、福祉の分野と深く結びついて発展していった国内での「アール・ブリュット」の動きを、多くの資料や写真とともに解説いただきました。
■西洋と日本のアール・ブリュットの違い
2000年代に入り、 日本で独自に進化した「アール・ブリュット」は、海外に発信されていきます。しかしながら、日本と西洋ではやや趣が異なり、例えば、日本では「知的障害者によるアート」がアール・ブリュトの主流となり、またアートよりも福祉の視点から活動が率先されてきたといいます。
また、日本ではこの分野の作品がアート市場に出てくることは稀であったり、批評の対象とならなかったり、専門のキュレーターではなく社会福祉施設に働くスタッフやその関係者によって展覧会が開催されるなど、西洋とは異なる特色があるそうです。
そういった現状を踏まえた上で、「福祉側の人間がキュレーションを行うことは問題なのか?」「“アウトサイダー”とはもともとアートの”中心“ではなく”周縁“であったはずなのに、それは美術の世界や資本主義で評価されなければ価値がないものになってしまうのか?」など、本コース「アートの有用性」のテーマにもつながるような疑問が受講生から挙がり、質疑応答では、保坂さんと受講生とで活発なディスカッションが行われました。
なお、7月には、北海道浦河町にある、統合失調症やうつなどの精神疾患を経験した当事者を中心とするコミュニティ「浦河べてるの家」が1年に一度開催するユニークなお祭り「べてるまつり」を訪問するツアーも企画されています。本コースの受講生でなくても参加できますので、日本のアール・ブリュットに興味を持たれたら、どうぞこちらもチェックしてみてください。
「第27回べてるまつり in 浦河」を巡るツアー(2泊3日/北海道・浦河町)
日時:7月19日(金)-21日(日)
訪問先:「第27回べてるまつり in 浦河」、浦河べてるの家ほか
高砂理恵