コース:UNKNOWN TOKYO: From the Streets
ナビゲーター: SIDE CORE(アーティスト・コレクティヴ)
日時:9月12日(木)19:00-22:00
訪問先:渋谷周辺
「都市における身体の拡張」をテーマにキュレーションや作品制作を行い、建築や壁画、グラフィティを巡る「MIDNIGHT WALK tour」を開催しているSIDE COREの案内で、100年に1度といわれる大規模な開発が進行中の渋谷を歩いて巡りました。
■渋谷は海外のアーティストにも知られるグラフィティの街
渋谷は、都内在住者にはたいていなじみがある場所ですが、実は世界中からグラフィティ・ライターが訪れ、ストリート・アートの聖地ともいわれているそうです。今回のツアーに参加して、これまでは「落書き」と捉えてしまっていたグラフィティや、単なる「工事」として大して気に留めていなかった再開発が、少し「特別」に思えてきました。
■都市再開発の陰では……
再開発が進む桜ケ丘から始まったツアーで、まずナビゲーターが注目したのは、仮囲いに描かれているイラストでした。その中には、再開発のために取り壊した建物に描かれたグラフィティもありました。ほかの仮囲いには「落書き禁止」と日英で書いてあり、グラフィティを外国人も描いていることを行政側も把握していることが分かります。
■グラフィティから過去の都市の風景を読み解く
グラフィティは、高い場所や足場を組みにくい場所などに描くと、消されづらく、そうして見る人に「どうやって描いたのだろう?」と思わせることが、一種のステイタスになるそうです。渋谷の道路の上にある、電車の線路を囲む壁には、身長が2メートルを超すアーティストが線路上から壁の外側に手を伸ばして描いたというグラフィティがありました。
また、ある高い場所のグラフィティは、かつてその壁面付近に設置されていた歩道橋があったときに描かれたもので、その歩道橋が取り払われたために、今ではミステリアスに見えます。グラフィティが描かれた場所から、かつてどこに道があったか、過去の都市の風景を推測することができます。
■グラフィティからアーティストのアイデンティティを読み解く
アーケードゲーム「スペース・インベーダー」のキャラクターをモチーフにした作品を描くフランスのアーティストは有名で、そのグラフィティが渋谷でも多く見られます。世界中にあるこの作品を撮影するとスコアが増えるアプリ「FlashInvaders」もリリースされています。
グラフィティに描かれたアルファベットの書き方から、出身国が大体分かる、というナビゲーターの話も面白かったです。英語圏の人は、文字の崩し方が巧みなのだそう。
■スプレーやステッカーだけでなく、硫酸や特殊塗料も
グラフィティにはスプレーやステッカーなどが多く使われますが、中には、硫酸で描いたものもあります。危険が伴いますが、容易には消えないために使われるのだとか。海外(香港)のメーカーには、丈夫で剥がれにくい特注のステッカーもあるそうです。ほかにも、ある特殊塗料にスマホの光をかざすと、グラフィティが浮かび上がるスポットも訪れました。
■ブロックを積み上げたようなデザインの建物で乾杯
最後は、原宿にある、ギャラリーやアパレルなどが入っている複合施設「BLOCK HOUSE」のバーで、ナビゲーターと参加者とで交流しました。3時間以上ほぼ歩き詰めでしたが、外国のアーティストが渋谷にグラフィティを描きに来ていることすら知らなかったので、今回のツアーは私にとって発見の連続でした。
何度も通ったことのある場所なのに、自販機の横の壁に描かれた、実物大の自販機のグラフィティに気付いていなかったなど、普段、多くのことを見逃して(聞き逃してetc.)しまっているのだと改めて思いました。今後は、出歩くときの自分の感覚や感度をもっと高めていきたいです。
阪口あい
<レポート2>
今回のツアーで印象的だったのは、再開発中の仮囲いに描かれているイラストでした。そこには、渋谷のランドマークが並べられ、その一つには、グラフィティも描かれていました。「落書き禁止」の張り紙があちこちで見られ、取り締まりが厳しくなる一方、都市の風景としてグラフィティが渋谷に根付いていることを象徴していました。
諸説ありますが、1970年代のニューヨークで始まったとされるグラフィティは、ギャングたちの縄張りを主張し合うように自身の住所と名前を描き始めた(タギング)争いから始まったと言われています。また最近では、「グラフィティ(落書き)」ではなく、歴代の著名なライターたちは自身の行為を「ライティング(書く)」といい、評価されています。
日本では、単なる「落書き」とみられがちですが、一方で前述の仮囲いのように、見方を変えるとグラフィティが都市の風景をつくっているともいえるのではないでしょうか。また最近では、「リーガルウォール」という法的に許可されている壁に描く活動もあるそうです。悪意のある犯罪行為は、もちろん罰せられるべきですが、グラフィティ・ライターたちの、都市を舞台に、軽やかにどこまでも拡張する行為には、都市へのリスペクトがあり、彼らはその都市を誰よりも知り尽くしているスペシャリストたちなのかもしれません。
大隈理恵