2019年7月26日(金)「コレクティヴ オルタナティヴ、イノベーション、サバイバル」

コース:マガジン・リダックス
講師:青木彬(キュレーター / dear Meスタッフ)、清水美帆(美術家 / dear Meスタッフ)
日時:7月26日(金)19:00-21:00
場所:代官山AITルーム

 
キュレーターの青木彬さんとアーティストの清水美帆さんが、昨今話題になっているコレクティヴの意義や役割、今後の可能性についてお話しました。
 

 
【清水美帆さん】
まず「なぜ個人ではなく集合体なのか」「複数である意味とは何だろうか」という問いから始まり、コレクティヴの歴史を紐解きながら、その難しさや意義について掘り下げました。

 
■近代のコレクティヴと現代のコレクティヴ
近代のコレクティヴの例として、「ダダイズム」と「未来派」に触れました。彼らはマニフェストを作成し、共通のイデオロギーや美学を持って、ムーブメントを起こす事を目的としていました。

 
一方、現代のコレクティヴとしては、2015年にターナー賞を受賞した「アッセンブル」、インドネシアを拠点に活動し、2022年のドクメンタでアーティスティック・ディレクターに就任した「ルアンルパ」があります。また、国内では東京・吉祥寺の「Art Center Ongoing」のディレクター小川希さんの呼びかけによって集まった「Ongoing collective」を紹介しました。これらは、「ダダイズム」や「未来派」のように共通のイデオロギーや美学を持って集まるというよりは、知識や経験をシェアすることでネットワークを作り、地域再生や幅広いコミュニティづくりに関わってます。

 
また、清水さんがロンドンのゴールドスミス・カレッジ在学中に、実験的に行った「Danger Museum」についても紹介しました。この活動は、1960年代の前衛的芸術家グループ「フルクサス」やシンガポールのアーティスト、タン・ダ・ウによって設立された「The Artist Village」に影響を受けていて、友人や知人から借りた作品を車で展示しながら、様々な場所を移動しました。

 
■アーティスト・コレクティヴのメリット・デメリット
コレクティヴのメリットには、関わっている人が多いことがあります。そのことで知恵や経験が増え、ネットワークが広がったり発信力が高まります。また、気軽な興味関心から問題意識や活動意義に深く関わるなど、それぞれの関わり方で参加することができます。サバイバルしながら、お互い批判性を持ちつつ助け合うことで、客観性も維持しやすくなります。

 
一方で、アーティストでいるのか、組織の運営側に立つのかなど「気軽さが失われていくこと」もあります。また、コレクティヴ自体やメンバー個人の知名度が上がることでグループ内での意識の持ち方に差が出たり、パワーバランスが変わってくることがあります。他にも、問題が起きた時の責任の所在や、声の大きい人の発言がコレクティヴの総意として捉えられてしまうことの難しさについても触れました。

 
■コレクティヴの現在と未来
現在のコレクティヴが存在する環境を考えてみると、分野横断的な活動が盛んであること、SNSを使った情報伝達のスピードが早いこと、技術の取得・共有が容易で、発信力を持ちやすいこと、などがあげられます。では、今後はどうなっていくのでしょう。

 
その時代のメディアのあり方や人と人の関わり方によって、生まれてくるアート表現も変わってきます。SNSを通じたコミュニケーションや情報伝達は便利である一方、表面的な関わりであったり情報が正しく伝わっているのかという問題もあります。こうした人間関係のあり方やコミュニケーション方法は、これからのコレクティヴのあり方に影響を与えて行きそうです。

 
また分野の横断が更に加速し、物事を表現する手法が多様化した時、それを「アーティスト活動」と言って良いのかという疑問もうまれてきます。コレクティヴの評価をどうしていくのか、何をもって成功とするのか考えていく必要があります。

 
 
【青木彬さん】
社会学者のハワード・S.ベッカーの著書『アート・ワールド』に、「アートとは集合的な行為である(Art as Collective Action)」という言葉が書かれている話から始まりました。青木さんは、Collective Actionは「社会を形成」する事でもあると語り、事例を交えながら、協働とコレクティヴの創造性とその可能性について考えました。

 
■芸術を無化することで見えてくるものとは
絵画や彫刻などの既存の美術とは違う表現を芸術といえるのだろうか、という問いがたびたび話題になります。イギリスの美術史家クレア・ビショップの著書『人工地獄』や、1964年の『美術手帖』(4-7月号)で繰り広げられた宮川淳氏と東野芳明氏による「反芸術をめぐる論争」でも問題提起されています。例えば、川俣正氏の「ワーク・イン・プログレス」というプロジェクトでは、いわゆる既存のアートと対なものとして「美なるものを懐疑」することを出発点とし、「普通でありながら普通ではなく社会に潜行していくこと」を提言し活動しています。アートレスな状態で制作・活動しているのに、アーティストにしかできない作品を作っています。

 
次に、近代の社会福祉、ソーシャルワークの形成発達に大きな影響を及ぼしたといわれる「セツルメント運動」が紹介されました。「セツルメント運動」とは社会人教育、医療福祉、無料で提供する場所、貧困の地域に根ざす等をキーワードに、1920年頃にも日本に取り入れられ、また当時のアーティストもこの運動に関わっていたことが分かっています。

 
また、明治時代の初めから東京の精神科医療を支えてきた世田谷区の「都立松沢病院」では、患者と医者と庭師と協働で庭を造り、その活動がアートとして紹介されています。

 
アーティストに限らない集合体であり既存の芸術活動とも異なる手法で表現したにも関わらず、アートとして認識されている事例です。

 

 
■コレクティヴに注目が集まる時代とは
青木さんと清水さんも関わっているプロジェクト「dear Me」では、社会的養護下にある子ども達(児童養護施設や里親の元にいる子ども達)とアーティストがコラボレーションしたり、その子ども達の状況を知るための勉強会を行ったりしています。また、芸術公社では、芸術と社会の関係性を更新するような活動を行っています。

 
つまり、コレクティヴは従来の芸術表現活動をするというよりは、個々の人間関係や分野を横断するための技術なのです。そのオルタナティヴな場所に、イノベーションが起こる可能性があるのです。

 
その活動こそがこの世界で生き残るための技術となり得るのかもしれません。

 
福家由美子

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