コース:アート・パートナーズ
講師:石田建太朗(建築家 / イシダアーキテクツスタジオ株式会社代表)
日時:7月9日(火)19:00-21:00 場所:代官山AITルーム
「アート作品を観るための空間」の設計は、通常の住宅や商業施設の空間設計とどのように違うのでしょうか?今回の「アート・パートナーズ」では、アメリカの「ペレス・アート・ミュージアム・マイアミ」や、那須の「N’s YARD」などの設計を手掛けられた、建築家でイシダアーキテクツスタジオ株式会社代表の石田建太朗さんにお話を伺いました。
◾︎美術館建築に求められるものとは?
過去にはスイスの建築事務所・ヘルツォーク&ド・ムーロンに在籍されていた石田さん。まずは、スイスのバーゼルをはじめとした、世界の美術館建築の事例を解説いただきました。周囲の景観との調和や、光の取り入れ方、そして 作品を「収蔵」と「展示」する機能や、多様なスタイルの作品に対応できる展示室など、多数の事例をもとに「美術館」に必要な要素を知ることができました。
石田さんも設計に関わられたアメリカの「ペレス・アート・ミュージアム・マイアミ」(設計:ヘルツォーク&ド・ムーロン)は、こういった過去の美術館建築の事例を翻訳しながら設計されたといいます。例えば、「鑑賞経路」をどれだけフレキシブルにするのか? また、施設そのものを「内向的」なものとするのか「開放的」なものとするのか? などの観点を考え、最終的には、大きなキャノピーを持ち、光と風の通る美術館にされたのだそうです。
◾︎N’s YARDはどうつくられたのか?
続いて、石田さんの建築事務所「イシダアーキテクツスタジオ」で設計を行ったN’s YARDの設計過程について詳しくお話しいただきました。N’s YARDは、栃木県の那須にある奈良美智さんの個人美術館です。(先日、AITのツアーでも伺いました。)
(N’s YARD 外観)
多種の植物が繁る広大な敷地の中で、まずは「どのように自然との関係をつくるのか?」ということが課題の1つだったといいます。過去のギャラリー建築の事例をもとに多くのスタディが行われ、レクチャーではプランの変遷もお話いただけました。自然のなかで建築そのものが主張しすぎないようにする一方、建築の中では多様な空間体験をつくることを意識し、最終的に、1つの大きな塊としての建物のなかに、サイズや自然光の取り入れ方の異なる5つのギャラリーのある設計にされたそうです。
設計にあたり、提示された制約が少ないことも難しさの1つだったといいます。奈良美智さんにとっての「制約」や「希望」が何なのかを「対話」を通じて引き出し、それを図面におとしこみ、多くの案を提示しながら整えていき、N’s YARDが出来上がったそうです。
自分が最高だと考える案を提出する「コンペティション」の方法とは異なり、対話から最適解を導き出していくデザインプロセスという、貴重なお話を伺うことができるレクチャーでした。
高砂理恵