2019年6月20日(木)「アート 観察 クリエイティビティ」

コース:アートの有用性
講師:ロジャー・マクドナルド(MADプログラム・ディレクター / AIT副ディレクター)
日時:6月20日(木)19:00-21:00 場所:代官山AITルーム
 

 
●「観察する」とどうなる?
ロジャーさんは「観察力」を考えることで、アートの持つポテンシャルを拡張できるのではないだろうかと考えています。つまり今までの常識で判断されていた事や専門家の考えとは違った視点で辿りつける可能性を示しています。
まず、アーティストにとって重要なスキル「どういった意識で作品を制作しているか」というアーティスト視点における観察力について考えました。この状態は(ちょっとした旅に出ているように)日常を飛び出し、意識が固定されず流動的な状態です。 
言い換えるとアートにおける観察力とは、ロジカル・シンキング(論理的思考)を意図的に解体する行為と言えます。

 
●「観察力」は生きるための知恵になりえる
美術史家であるT. J. クラーク(1943-)は、一つの絵を半年間毎日座って鑑賞し、日記をつけてみるとどうなるか、という実験「The Sight of Death」を行いました。結果、彼の鑑賞日記は、論理的な文章から次第に詩的な文章へ変化していき、ついには言語の限界を感じ、「絵画というものは、言語を抵抗するのではないか。」と悟りました。
このT. J. クラークの実験は、「観察力」を使うと、言葉で説明できない事が起こったり、違った言語が立ち現れてきたり、今までの常識を超える可能性があることを示唆しています。ロジャーさんは、この「DEEP LOOKING(深く観る事)」「ATTENTION(観察力)」は、現代の混乱した状態を判断・批評する力(批評力)になると語ります。しかし、私たちの日常において、注視することは、現代では難しいことかもしれません。この情報化社会が加速する中どう主体性を持ち「観察力」を使えば良いのでしょうか。

 
●どうすれば「観察力」を鍛えられる?
詩人のジョン・キーツ(1795 – 1821)は「必要なのは不確実性・居心地悪さに居続ける能力。事実や理由を探さない事。」と語っています。
現代、居心地の良い悪いは、SNSの「いいね」や「スルー」のように瞬時にスワイプされてしまいます。そうした速度でアート作品を判断するのではなく、丁寧にその作品と向き合うことで、脳(思考)が柔らかくなり、視覚の焦点がゆるんでくるかもしれません。
「観察力」を鍛えるひとつの方法として、「フロー状態(Flow States)」を作り出すことです。フロー状態とは高い集中力でありエゴが薄くなっている状態です。
ビジネス・シーンや軍事でも利用されているフロー状態は、古くは、中国・山水画を鑑賞・制作する際に用いられる指南書にも登場し、また、豊かに生きることを模索した実験コミューン「モンテ・ヴェリダ」などでも実践されました。

 

 
最後に、キュビズム時代のピカソや、瞑想者であり「どうやって鑑賞を深い瞑想に戻せるか」を模索していたアグネス・マーティン(1912-2004)などのアーティストの紹介がありました。また、身体への観察力について実験的なダンス・ワークショップを実践しているアンナ・ハルプリンが行った「egg dance(エッグダンス)」を体験しました。
「egg dance(エッグダンス)」では、時間をかけて卵の中から誕生する気持ちで、自分の呼吸・身体に意識を集中させていきます。

 

 
アートを「深く観察する」ことは、違った価値を創造する力になり得るかもしれません。また、創造性を拡張する手がかりとして鑑賞者にもアーティストにも興味深い内容でした。
鑑賞の際には「作品につきあってみる」という気持ちで向き合ってみると、面白い体験ができるかもしれません。

 
福家由美子

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