コース:アートの有用性
講師:ロジャー・マクドナルド(MADプログラム・ディレクター / AIT副ディレクター)
日時:5月23日(木)19:00-21:00 場所:代官山AITルーム
「アウトサイド」という言葉をキーワードにアートの歴史を捉え直しながら、アートの可能性や有用性について考える「アートの有用性」コース。今回は「アートと宇宙意識」というテーマで、MADプログラム・ディレクター / AIT副ディレクターのロジャー・マクドナルドさんのお話を伺いました。
■「宇宙意識」とは?
「宗教学」と「アート」の交差する点を研究テーマの1つとして探求されているロジャーさん。「アートと宇宙意識」という今回のテーマは、本来1回のレクチャーでは語りきれないほどの壮大なテーマだといいますが、そもそも「宇宙意識」とはどのようなものなのでしょうか?
「宇宙意識」は、1901年にアメリカの心理学者であるリチャード・モーリス・バックが 書籍『宇宙意識(Cosmic Consciousness)』(尾本憲昭訳、ナチュラルスピリット)で発表した言葉。この書籍では、様々な変性意識状態(覚醒時の意識と異なる意識状態:睡眠・催眠・トランス等)の体験がまとめられ、宗教的なものだけでなく、アーティストや、一般の方からの体験談なども集められています。
こうした変性意識状態の事例や、意識を変性させるための方法、また、このときに脳で起こっている事の科学的な研究結果など、様々な方向から「変性意識」についてご説明いただきました。
■「宇宙意識」とアートの関係
では、「宇宙意識」と「アート」はどう関係があるのでしょうか?
アートの原点を「洞窟壁画」と考えた時、ここでも変性意識の影響が考えられるとロジャーさんはいいます。
デヴィッド・ルイス=ウィリアムズによる書籍『洞窟のなかの心』(港 千尋訳)を参照し、「絵」の概念がなかった時代に初めて「絵」が生まれたのは、意識の変性体験による幻覚や内視現象(目を閉じた状態で見える幾何学模様)を伝えるための手段だったのではないか、いう説があるそうです。
アートの原点は、目を開けて見えるものではなく、目を閉じた状態で見る内面的なものにあったのではないか?というのは、具象から抽象(非具象)に向かっていった現代美術の考え方と逆行するようで興味深い説です。
この他にも、多数の文献を参照しながら、宇宙意識とアートとの関わりの事例をご紹介いただきました。
■「宇宙意識」とモダンアート
こういった「宇宙意識」とアートの関係は、現代でも続いているそうです。20世紀に入ると宗教的な意味は弱くなっていくものの、宗教的な体験や関心はアーティストたちの中に残り、宗教体験を促すような作品は制作されているとのことで、カンディンスキーやモンドリアン、マーク・トビー、ジョン・ケージらの作品の事例についてご説明いただきました。
「宇宙意識」を切り口に、古代から現代アート、そして、カルチャーや現代社会との関わりまで、2時間ノンストップの濃密なレクチャーとなりました。
ロジャーさんが館長を務める長野県佐久市にあるプライベートミュージアムFenberger House(フェンバーガーハウス)では、毎年、1泊2日で「宇宙意識」についてじっくりと体験する「宇宙意識美術館」が開催されています。今年は7月以降に開催予定とのこと。「宇宙意識」についてより詳しく知りたい・体験したい方はどうぞこちらもご参照ください。(詳細は日程が近くなってから公開予定です。)http://mad.a-i-t.net/ubia/
高砂理恵