現代美術の一つの大きな魅力は、作品を通して政治や社会、思想に思いを馳せることです。
近代美術の殿堂とも言われているニューヨーク近代美術館[MoMA]は、1929年の開館当初、教育普及機関として市に登録され、双方向性の対話によるラーニング・プログラムを通して、作品と鑑賞者を繋げる大切な役割を果たしてきました。また、20万点を超えるMoMAコレクションの一部は、現在オンラインで閲覧ができ、目の不自由な方やキッズ向けの作品解説が他言語で聞けるなど、オンラインも充実しており、美術教育の最先端としても常に注目されています。
本講座では、2004年よりMoMAの教育普及に携わってきた山村氏を迎え、MoMAのラーニング・メソッドを通して美術史の基礎を学ぶとともに、現在のMoMAの美術に対する見方や考え方、また、社会や思想の動向がどのように同時代の美術を形づけているかを議論します。最後に、キュレーターのロジャー・マクドナルドとともに、MoMAコレクションの作品から、参加者が自らの視点を通してキュレーションを試みるワークショップを行います。
それぞれの近現代美術に関するキュレーションのアプローチを考え、作品や現代美術に関する理解を深めることが本講座の目的です。

 レクチャー及びワークショップは以下の手順で進めていきます。
 1)受講生には事前に参考文献と参考サイトをメールにてお知らせ
 2)MoMAの美術教育の歴史と、当時の社会状況を踏まえた近代美術の基礎知識を学ぶ
 3)最新の展覧会情報などを事例に挙げながら、美術に関する歴史的問題や現代の社会問題、出来事について考える
 4)MoMAコレクションをベースに、受講生の関心のあるテーマや問題と紐付けて、展覧会のアイディアを練る
 5)アイディアの発表およびディスカッション

*英語の参考文献は、レクチャー当日、日本語で丁寧に紹介しますので、英語が苦手な方も受講できます。

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★第1回:レクチャー「MoMAの美術教育の歴史と60分で学ぶモダンアート」[12月8日(金)19:00-20:30]
本セッションでは、MoMAの双方向性の対話によるラーニング・プログラムの実践として、近代美術史の基礎を学びます。また、翌日のセッション「歴史的アートの再考と再発掘、新たなジャンル」を考察する課題として、山村氏が著した参考文献とMoMAのコレクションサイトを参照しながら、これまでに語られてきた美術史を新たに捉えなおすヒントを探ります。*受講生には事前に参考文献と参考サイトをメールにてお知らせします。


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★第2回:レクチャーとディスカッション「歴史的アートの再考と再発掘、新たなジャンル」[12月9日(土)11:00-12:30]
His story「神もしくは彼(勝者)の物語」として語られる歴史と同様に、美術史も20世紀後半まで白人、男性、知識人といった、社会の優勢な立場に立つ者たちの視点から語られてきました。
しかし、ポスト構造主義が近代という神話を破壊し始めたことから、それまで西洋美術史に含まれることがなかった非西欧圏の美術や、女性アーティストの作品、カウンター・カルチャーの流れから生まれ出たサイケデリック・アートや実験映画など、新たな表現手法が、21世紀に入ってから MoMAの展覧会を構成するようになってきました。
こういった傾向は、現在開催中のLouise Bourgeois: An Unfolding Portraitや、Club 57にも見出すことができます。最近行われた日本に関する展覧会には、Yoko Ono: One Woman Exhibition, 1960-1971 や、Tokyo 1955-1970: A New Avant-Garde などもあります。
このセッションでは、MoMAの最新展覧会情報と新たなキュレーションのアプローチを紹介するとともに、無視されてきた美術史の大きな問題や課題についてディスカッションします。


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★第3回:ワークショップとディスカッション「キュレーションの実践」[12月9日(土)13:30-16:45]*休憩含む
前日の課題とレクチャーをうけて、受講生が関心のある作品やテーマ、コンセプトをもとに、MoMAのコレクションサイトを使って、展覧会のアイディアを考え発表し、受講生全員でディスカッションを行います。(各10分 フィードバック含)

こんな方にオススメ!

ー展覧会づくりのシミュレーションを通じて、近・現代美術の基礎を学びたい方
ー近代美術の歴史とその背景を別の角度から捉え、学びたい方
ーMoMAのラーニング・プログラムに興味のある方、実際に体験したい方

講師

山村みどり(ニューヨーク近代美術館[MoMA]講師 / ニューヨーク市立大学キングスバロー校准教授)

Photo by Kazuhisa Kuwahara

株式会社アートフロント・ギャラリー勤務を経て渡米。「ファーレ立川」に関わり、フェリックス・ゴンザレス=トレス、ジミー・ダーラム、マリーナ・アブラモヴィッチなどの作品を日本で紹介。2012年、ニューヨーク市立大学で美術史博士号を取得。スミソニアン・アメリカ美術館や、イギリスの地理学者デヴィッド・ハーヴェイの研究機関「Center for Place, Culture, Politics」、日本学術振興会の博士研究員を経て、ニューヨーク市立大学で教鞭をとる。2004年よりニューヨーク近代美術館[MoMA]講師。MoMAの日本語教材やオーディオガイドの監査なども務める。 近著にテート・モダン/ホイットニー美術館の『草間彌生』(2012年)、マサチューセッツ工科大学出版部より刊行された『Yayoi Kusama: Inventing the Singular』(MIT Press, 2015年)、『Tadaaki Kuwayama: Radical Neutrality 』(London: Mayor Gallery, 2017年)などがある。現在イギリス、リアクションブックスより出版予定の『1989年以降の日本現代美術』を執筆中。

ファシリテーター

ロジャー・マクドナルド(MADプログラム・ディレクター/AIT 副ディレクター)

東京生まれ。イギリスで教育を受ける。学士では、国際政治学。修士では、神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)。博士号では、『アウトサイダー・アート』(1972年)の執筆者ロジャー・カーディナルに師事し美術史を学ぶ。1998年より、インディペンデント・キュレーターとして活動。「横浜トリエンナーレ2001」アシスタント・キュレーター、第一回「シンガポール・ビエンナーレ 2006」キュレーターを務める。2003年より国内外の美術大学にて非常勤講師として教鞭をとる。長野県佐久市に移住後、2013年に実験的なハウスミュージアム「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。また、国内初の英国式「チャトニー」(チャツネ)を生産・販売している。興味は美術史、絵画、変性意識状態、オーディオ鑑賞、踊り、山。AIT設立メンバーの一人。
TICKETS

レクチャータイトル:MAD WORLD vol.4 Thinking through the MoMA collection:ニューヨーク近代美術館のコレクションを通して見えてくるもの


日時:12月8日(金)19:00-20:30

12月9日(土)11:00-16:45

場所:AITルーム(代官山)

定員:20 名

講師:山村みどり(ニューヨーク近代美術館[MoMA]講師 / ニューヨーク市立大学キングスバロー校准教授)

受講料:¥19,000(税別)

備考:ランチ付き

RECOMMEND

Art & Culture TRIPS

 11月30日(土) 9:00-19:00(予定)

ナビゲーター:AITスタッフ
ゲスト:竹久侑(水戸芸術館現代美術センター主任学芸員)、佐藤麻衣子(水戸芸術館現代美術センター教育プログラムコーディネーター)ほか
訪問先:水戸芸術館現代美術センター、茨城朝鮮初中高級学校ほか
定員:25名 *最小催行人数:15名
料金:¥16,000(税別)*コース生 ¥2,000引

水戸芸術館現代美術センターの「アートセンターをひらく 第Ⅱ期」と茨城朝鮮初中高級学校「オープン・スクール」ほかに訪問予定です。

Art & Culture TRIPS

 6月29日(土) 9:00-19:00(予定)

ナビゲーター:塩見有子、大隈理恵(AIT)ほか
ゲスト:石田建太朗(建築家)*予定
訪問先:N's YARD
定員:25名 *最小催行人数:15名
料金:一般 ¥16,000(税別)*コース生 ¥2,000引

アーティストの奈良美智氏の未発表作品やコレクション作品などを展示している個人美術館「N's YARD」と自然と現代アートに包まれた、保養とアートの宿「板室温泉大黒屋」を訪問します。

Art & Culture TRIPS

 7月19日(金)-21日(日) 

ナビゲーター:AITスタッフ
ゲスト:向谷地宣明(MCMedian代表取締役 / NPO法人BASE代表理事)、浦河べてるの家関係者ほか
訪問先:「第27回べてるまつり in 浦河」(浦河町総合文化会館)ほか
定員:20名 *最小催行人数:14名
※ 早期「お問合せ」割引 / MAD生割引あり

北海道浦河町にある、統合失調症やうつなどの精神疾患を経験した当事者を中心とするコミュニティ「浦河べてるの家」が1年に一度開催するユニークなお祭り「べてるまつり」を訪問します。

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