近年の米国社会において、ソーシャル・メディアやバーチャル・リアリティなどにみるメディア・テクノロジーは、ますます大きな影響力を持っています。そこでは、現実とフィクションが混在するだけではなく、新しい政権が誕生した時に起きたように、真実がオルタナティブ・ファクツ(代替的事実)として発表されたりもする日常があります。
アート作品の中には現実と想像の世界を行き来して作られるものもありますが、社会がオルタナティブ・ファクツに満ちあふれるとき、アートはどのようなものになっていくのでしょうか。物語性(ナラティブ)を伝える重要性や倫理の問題など、今後、メディア・テクノロジーはどのような役割を担い、またアートとはどのような関係性を結ぶのでしょうか。
2016年春から一年間、ボストンのMITで研究し、そこで見た・聞いたこれまでの取り組みや、最新のテクノロジーとアートの動向について、レクチャーとワークショップを交えて考えます。

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● 背景 

メディア・テクノロジーの急速な発展により、良くも悪くも、世界はめまぐるしく動いています。例えば、アメリカの現政権のオルタナティブ・ファクツ(代替的事実)の存在にみられるように、自分の周りで起きていることが真実なのか空想なのかがわからなくなる現状に危機感を覚えている人も多く、なかにはそれを研究対象として活動をし始めた人もいます。
もともとテクノロジーは「未来を造形すること」につながり、毎日の生活の中にもテクノロジーの発達によって生まれたアイデアが多く使われてきました。そこには、「未来の社会をより良くしよう」という思いや考えが私たちの中にあり、アーティストやデザイナーもその例外ではなく、同様の意思で活動してきたと言えるかもしれません。この思いが前提にあったとし、アートやデザインの力を使って自分たちの未来を創るとしたら、どんなことができるのでしょうか。危機感を覚えて研究をしている人の多くにとって、「物語性」や「語り」がその答えを見出す方法として、重要なキーワードであるように思えます。

● 概略

上記の背景を踏まえて、受講生には現代の動向を認識してもらった上で、その中から個々が考えている問題定義や事例をもとに、アートやデザインとの結び付きを「物語を語り直すこと」をキーワードに一緒に考察していきます。
ワークショップは以下の手順で進めていきます。

1)現状の問題や出来事から未来の起こりうることを想定します。
2)その問題の解決策を考える上で、物語としての捉え方や語り方を念頭に社会で実現可能かどうかや倫理的な要素も含めて考察します。
3)次にアートやデザインなどのクリエイティブな方法を用いて、解決策を提示します。これを「未来のレシピ」として最終的に発表します。

★第1回 レクチャー/メディア・テクノロジーの動向・アートの物語性[6月2日(金)19:00-20:30]
「未来の造形」「デザインする上での物語性」「物語を語るプロセス」に着目して、実際にアメリカの研究機関(特にMITメディアラボ)ではどのような研究がされているのかを詳しく紹介していきます。

  1. VR/AR[Virtual Reality(仮想現実)/Augmented Reality(拡張現実)]
ゲーム、アニメ(pokemon go)などエンターテイメントの領域で多く使われているVR/AR技術ですが、アメリカではエンターテイメント以外にその使用方法の領域を広め、心理療法やドキュメンタリー、ジャーナリズムの分野などでも導入され始めています。例えば、MITメディアラボ内のOpenDocLab、Civic Media Groupの活動など、倫理(ethics)や物語性 (narrative)、モラル(moral)を中心に彼らの研究内容を紹介します。

  2. アート/デザイン/メディア
「speculative design(思索するデザイン)」という考え方により、近い未来で実現可能な技術をデザインする活動が進められています。それにより、社会の問題を可視化し、未来のヴィジョンを提示することができます。例えば、MITのクリシュトフ・ウディチコ氏(現ハーバード大学GSD教授)が率いるインターロガティブ・デザイン・グループはアートと技術をデザインに融合し、社会的に重要でありながらデザインにおいてはあまり扱われない文化的な課題を取り入れた活動をしています。最終的にはデザインが社会に還元されていくことを活動の目標としています。そこでは、「没入する物語」の構築が一つの指標として定められ、アートやデザインに留まらず、私たちの未来を造形する上で、必要な手段になりつつあります。

  3. その他
物語性という概念は他の分野でも見て取ることができます。例えば、MITメディア・ラボのOpen Agriculture initiativeの研究グループは新たな農業方法として、人工的な水耕栽培技術を研究しています。気温や水温などの条件をコンピューターで管理して作物を栽培し、地球温暖化や災害などの影響を受けない、屋内での農業を普及させることを目指しています。そこで得た情報、野菜を栽培する「レシピ」のデザインはオープン・ソース化(情報共有)し、その情報を広く誰にでも提供できるという特徴があります。ここでは、野菜作りを誰もが読める一つの物語として、捉えることができるでしょう。


★第2回 ディスカッション/アイデアの種を見つける[6月3日(土)11:00-12:30]
前日のレクチャーと課題をうけて、受講生がそれぞれ見つけてきた社会問題や出来事から未来で起こり得る事象を想定し、アイディアのもと(種)を発表します。簡単なディスカッションを全員で行い、そこからメインのトピックを選び、グループに分かれてさらに議論を深めていきます。ディスカッションのポイントとしては「語り直す事実とはなにか?」「未来に起こり得る事柄か?」「倫理やモラル、社会、環境に対する影響とはなにか?」、「人間への身体的な影響とは?」などを考察します。アートやデザインを使い、クリエイティブな方法で解決策や問題を乗り越えることを考え、未来の造形をしていきます。


★第3回 ワークショップ「未来のレシピ」をデザインする[6月3日(土)13:30-15:00]
再びグループに分かれ、未来を造形するための「レシピ(手順書)」を考えます。前回に出てきたポイントをもとに、「レシピ(手順書)」を作ります。料理本に例えてみると、材料→調理法→出来上がりのように、各プロセスに分けてそれらを一つ一つ視覚的にドキュメントしていきます。さらに、それに付随する成り立ちを考えて物語を書き上げます。


★第4回 ワークショップ/「未来のレシピ」発表[6月3日(土)15:15-16:45]
グループごとに「未来のレシピ(手順書)」を発表し、受講生全員でディスカッションを行います。「私たちの未来はこうあるべきだ」として始まったワークショップがどのように変化して行ったのか、結果としてどのような未来の物語が出来たのか、を議論していきます。また、「物語性」の導き方など、どのようにこのキーワードを取り上げたのかを話し合います。最終的には、未来像をまとめたレシピ集をつくります。

講師

森弘治(美術家)

マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院修了。映像作品を中心に現代美術の分野で活動。主な展覧会に、第3回恵比寿映像祭、越後妻有アートトリエンナーレ2009、第52 回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際企画展、原美術館「アートスコープ2005/2006」、ジュ・ド・ポーム国立ギャラリー「The Burlesque Contemporains」などがある。2016年には「MOTアニュアル2016:キセイノセイキ」展(東京都現代美術館)のディレクションとキュレーションを主導する。また、2009年にアーティストによる芸術支援システム「ARTISTS` GUILD」を設立。東京芸術大学などで教えたのち、現在はAITで教鞭を取っている他、アートの実践教育プログラム開発にも携わる。2016年3月より一年間MITにて客員研究員として研究に従事。
TICKETS

レクチャータイトル:MAD WORLD vol.1
米国におけるメディア・テクノロジーとアートの最新動向


日時:6月2日(金)19:00-20:30

6月3日(土)11:00-16:45

場所:AITルーム(代官山)

定員:20 名

講師:森弘治(美術家)

受講料:¥19,000(税別)

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