Vol.2「人を巻き込むアートプロジェクトの最先端」/ 2012年11月
西尾美也さん(現代美術家)2007年度MADアーティスト・コース修了、2009年度AITスカラシップ・プログラム受賞アーティスト

誰もが日々無意識に行う表現活動とも言える「装い」。装う行為の中にコミュニケーションの可能性を見出そうとする西尾美也は、街なかで通行人と洋服を交換する《セルフ・セレクト》や、こどもたちが大人へのインタビューから拾い上げた言葉から、イメージを膨らませて洋服をデザインする《Forms on Words》など、実験的でユニークな作品を発表してきた。現在は活動の場所をケニア・ナイロビに移し、日本とは異なる環境のなかで試行錯誤を繰り返しながら、活動の幅を広げている。「学ぶ」ことが「作る」ことに与えてくれた影響、アフリカでの活動や今後の展望などについて、メール形式でインタビューを行った。

 

『アートレスーマイノリティとしての現代美術』表紙

 

聞き手(脇屋):美術と出会ったきっかけを教えて下さい。

 

西尾:父親が趣味でよく絵を描いていたり、おもちゃとして面白いモノを作ったりしてくれていたので、小さい頃から自分も描いたり作ったりするのは好きでした。
美術作品に感動したという経験はあまりなくて、たしか浪人時代に読んだ川俣正さんの『アートレス — マイノリティとしての現代美術』で、現代美術って面白いなと思いました。もちろんプロジェクト紹介のひとつひとつが新鮮で壮大で驚きましたが、「美術館のインスタレーションより工事現場の方が面白い」とか、「メディアアートよりゲームセンターの方が面白い」というような記述があって、確かにと思うと同時に、普段自分も経験しているような事象への着目が、アートレスとは言うものの、最先端の美術になり得るのだという発見がありました。あと写真で見る川俣さんのアーティストっぽくない感じとか、知的なのか文法が間違っているだけなのか、よくわからなくなるような独特の文体にも惹かれました。

 

脇屋:「見る」から「作る」側への転換のきっかけはどんなものでしたか

 

西尾:ファッションにのめり込んだ時期があって、美術との出会い以上にそれが今の創作活動につながっています。衣服は見るだけでなく着て体験できるメディアですが、そんな身近なものなのに誰かが作ったものを選んで購入するしかないという仕組みに違和感を覚えはじめたのが、自分で作るようになったきっかけです。

 

脇屋:MADのアーティストコースに通われたそうですが、「作る」に「学ぶ」を加えようと思われたきっかけはどんなものですか?

 

西尾:自分を美術業界の中でどのようにマッピングすべきか模索していた時期で、何かヒントを得られればと思いました。また、単純にAITの取組み自体に興味がありましたし、キュレーターでもある講師の方々に自分の活動を知ってもらいたいという思いが実は強かったです。

 

脇屋:「学ぶ」ことで得たことが「作る」の中で生かされたエピソード、また「学ぶ」ことで手に入れた自分なりの武器があれば教えて下さい。

 

西尾:その後、AITのスカラシップ・アーティスト(2009年)に選んで頂いたことや、さまざまな背景をもつ受講生のみなさんと一緒に企画を考える時間を頂けたことは貴重でした。「学ぶことで得たこと」とは少し違いますが、MADに参加したことで、そこで生まれたつながりから今も学ぶことがあるというのは、ある意味、受講動機の狙い通りで嬉しいです。
AIT自体、あるいはそこに集まる人たちが、多角的にアートを捉えているので、いろんなアートのあり方やアートとの付き合い方があるということを再確認させてもらっています。芸大にも9年間いましたが、やはりAITの方が世代も立場も関心もさまざまでした。ひとつの主義や流行に傾倒せず、すべての立場を受け入れた上で互いに学び合おうとする姿勢は、ナイロビで人を巻き込んだアートプロジェクトを実践する上でも有効なものです。

 

左:≪オーバーオール:蒸気機関車≫ 2010 / 古着、スティック / h:300 w:250 d:750 cm / 展示風景:≪Overall Project in Nairobi≫ 2010年 / キベラ、ナイロビ、ケニア / 撮影:千葉康由
右:≪オーバーオール:蒸気機関車≫, 2010 / 制作風景:≪Overall Project in Nairobi≫ 2010年 / ンガラ、ナイロビ、ケニア

 

脇屋:ナイロビに拠点を移されたきっかけは個人旅行とのことですが、制作の動機や着想など、作品に変化はありましたか?

 

西尾:基本的に作品制作で目指したいことに変化はありません。ただこちらでは、ケニアで地域研究をしている妻と、スラム出身の一般ケニア人との3人でチームを組んで活動しているので、ソロの活動とは少し立場が異なります。
ナイロビはアートの土壌が豊かではないので、制作の環境も、作品の見てもらい方もすべて自分たちで考えなければなりません。例えば下町に行くと、たくさんの職人が炎天下の屋外や半屋外で働いている姿を見ることができます。アトリエがなくても物作りができることを証明してくれるし、なによりそういう場は活気に満ちあふれています。工具や材料も簡単に手に入ります。そういう姿にあこがれて、彼らの隣にスペースを借りて作品制作をしたこともあります。
また、見てもらい方について言えば、制作のプロセスもまた表現だという発想なので、屋外で制作するという行為自体が作品を見てもらうことに通じています。必ず「何を作ってるんだ?」という会話になりますから。
あとは、道ばたの路上商店も多いので、その並びにスペースを借りて通行人が参加可能なワークショップを開催したこともあるし、普段から商品をたくさん身につけて売り歩いている人たちにモデルになってもらって、渋滞の中の道路をキャットウォークに見立ててファッションショーをしたこともありました。
そういうことをしていると、必然的に他ではみられない実験的な活動になります。いわゆる「アート」という分野に保障されていない中で活動することにやりがいを感じています。アートプロジェクトが普及している日本とは違って、街なかアートのためのコーディネーターもアートマネージャーもおらず、すべてを自分たちだけで企画して交渉しなければなりません。僕たちの制作現場や作品に出くわす人もワークショップの参加者も、それが「アート」であるかどうかはどうでもいいという点で、よき観客に恵まれているわけでもありません。なにより外国からは援助の対象として見られている国です。
そんな中で、アート的な技術を持って面白さを追究する行為は、コラボレーターとしてアフリカを捉える、今後必要な視点であり、人を巻き込むアートプロジェクトの最先端と言えるのではないかと自負しています。

 


左:≪PENZI NI UA HALITAKI JUA≫ 2012年 / カンガ、布 / h:110 w:300 cm / 制作風景:≪Kangaeru Workshop≫ 2012年 / コロゴチョ、ナイロビ、ケニア
左:≪USIA WA MUNGU NI IBADA≫, 2012 / カンガ、布 / h:52 w:52 cm / 展示風景:≪Kangaeru Street Fashionshow≫2012年 / ランガタ・ロード、ナイロビ、ケニア / 撮影:James Muriuki

 

脇屋:今後の活動についてお聞かせ下さい。

 

西尾:≪Form on Words≫というファッションブランドのプロジェクトが日本で進行中で、隅田川周辺の地域産業と、近隣に暮らす市民や子どもたちと共につくりあげる展覧会を、10月24日よりアサヒ・アートスクエアで開催しました。

来年以降は、日本人アーティストをナイロビに招聘するレジデンス企画や、ケニア人を日本に連れて行くプロジェクトなどを予定していて、準備を進めています。これだけ環境が違う中で日本のアーティストに何ができるか、こちらからの挑発のようなかたちで、2011年にも公募形式でレジデンス企画を実施しましたが、今回は指名制で実施したいと思っています。ナイロビでは治安の問題もあって自由に動いてもらうことが難しいので、短期間の滞在では僕たち以上のリサーチはできないだろうと考えました。逆に僕たちの普段のリサーチを素材として使ってもらえるようなアーティストに依頼することで、アーティストのインスピレーションだけに頼った滞在制作ではなく、よりコラボレーションに近いものにしたいなと思っています。

ケニア人を日本に連れて行くプロジェクトについては、アーティストではなく一般のケニア人を考えています。ナイロビにもいわゆるアーティストはいますが、僕はどちらかというと一般ケニア人の日常的実践の中に、ユニークなクリエイティビティを感じているので、「一般ケニア人をアーティストにする」という発想で、日本での滞在制作の機会を作りたいと思っています。いずれも今後の動向にぜひご注目ください。

 


《Form on Words Fashionshow》 2012 / 展示風景:「アサヒ・アートスクエア パートナーシップ・プロジェクト2012 /《Form on Words》:ネクスト・マーケット[ジャングルジム市場]」2012年 / アサヒ・アートスクエア、東京 / 撮影:湯浅亨

 

西尾美也(にしお よしなり)

imai_portrait.jpg 1982年奈良県生まれ。現在は東京とナイロビを拠点に活動する。
東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。専門は先端芸術表現。研究作品《Self Select in Nairobi》《Overall: Steam Locomotive》と、博士論文「状況を内破するコミュニケー ション行為としての装いに関する研究」で博士号(美術)を取得。
装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、市民や学生との協働によるプロジェクトを国内外で展開している。代表的なプロジェクトに、世界のさまざまな都市で見ず知らず の通行人と衣服を交換する《Self Select》や、数十年前の家族写真を同じ場所、装い、メンバーで再現制作する《家族の制服》、世界各地の巨大な喪失物を古着のパッチワークで再建する《Overall》などがある。また、2009年には西尾工作所ナイロビ支部を設け、アフリカでのオルタナティブなアートプロジェクトを開始している。
現代美術家として探究してきた装いに対する考察をもとに、2011年にはファッションブランド《Form on Words》を設立した。

 

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Art & Culture TRIPS

 7月19日(金)-21日(日) 

ナビゲーター:AITスタッフ
ゲスト:向谷地宣明(MCMedian代表取締役 / NPO法人BASE代表理事)、浦河べてるの家関係者ほか
訪問先:「第27回べてるまつり in 浦河」(浦河町総合文化会館)ほか
定員:20名 *最小催行人数:14名
※ 早期「お問合せ」割引 / MAD生割引あり

北海道浦河町にある、統合失調症やうつなどの精神疾患を経験した当事者を中心とするコミュニティ「浦河べてるの家」が1年に一度開催するユニークなお祭り「べてるまつり」を訪問します。

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定員:12名 *最小催行人数:7名
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本ツアーでは、普段はなかなかアクセスできない企業に展示されている作品やアーティストの作品が生まれるスタジオなどを巡り、じっくり時間をかけて様々な角度からアート作品を鑑賞します。

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料金:¥16,000(税別)*コース生 ¥2,000引

ロジャー・マクドナルドのガイドのもと、縄文のアニミズムとアートとのつながり、絶滅を考えるユニークな1日ツアーです。長野県にある「浅間縄文ミュージアム」と「フェンバーガーハウス」を巡ります。