2017年01月31日

Vol.4「アーティストの証言を丁寧に残していきたい」(後編)

島貫 泰介(美術ライター&編集者)
2007年度MADキュレーション・プラクティス修了

 

聞き手:脇屋 佐起子
2010年度MADキュラトリアルスタディーズ修了


前編ではMAD受講から現在のお仕事に就かれるまで、また現在のお仕事について伺いました。後編では、ライター哲学や、今注目の展覧会や若手アーティストなど、出版業界ならではのお話も伺っていますので、ぜひ併せてお読みください!
(前編をよむ)

8. 語彙や表現力を磨き、読みやすい文章にするために、心がけていることはありますか?

島貫:例えば800字程度のテキストを最初から最後まで読み通すことって、読者にとっては大変な負担です。だから、読者に馴染みの薄い専門用語を使ったり、作家名だけを羅列してみてもほとんど意味がない。ですから、展覧会の魅力が自然と頭に入ってくるように、冒頭で例えば身近な社会状況を例に挙げてみたりすることで、美術に詳しくない読者でも、最後まで読んでもらえる工夫をしています。もちろん美術に対して求めるものは人それぞれ異なりますから、誰にでも親しみやすい書き方というのは難しく、ある意味では危険でもあります。誤った情報を伝える危険性もあるし、読者を子ども扱いすることとも紙一重ですから。とはいえ全体としては、好奇心を刺激して、この先を読みたくなるような書き方を意識しています。

あとは、どうしても美術の記事を書いていると「作品」「作家」といった言葉が頻出してしまうのでくどくならないように表現を変えるなどして、調整に気をつかいますね。ただ単純に語彙が豊かなことが良い文章につながるわけでもなくて、無理に簡単な言葉にすると子どもじみてしまったりすることもある。意味合いが変わることを避けるために難しい言葉をそのまま使うこともあります。たとえ難しい言葉でも、字面や前後の文脈で話の内容が伝われば感覚的に理解できるはずですから、前後の文章を柔らかい表現にして、自然と言葉の意味を推測できるような流れをつくったり。でも、こういう組み立て方をしていると、文章のあらゆるところに大小の伏線が仕込まれている構造になりがちで、編集者が「こう直してほしい」「この情報を追加してほしい」なんて言われると、すべてが破綻してしまうこともあったりして大変です。「わかりやすく、伝わりやすく」を核としつつ、柔軟に手を入れられるような文章を書けるようになりたいです。

僕は文章にとって一番大事なのは、内容の構成から生まれるリズム感だと思います。読んでいて心地良い文章というのは、韻を踏んだり、思わぬ体言止めでハッとさせるとか、読者の意識を要所要所でノックするような感覚があったりする。難しい情報の塊を押し付けるのではなく、例えば思わず歌を口ずさんでしまうようなリズム感こそが、何かを物語ると思う。そのほうが記憶に残るでしょうし、自分で書いていても楽しいですね。

お話を聞いていて、(お笑い芸人の)ラーメンズを思い出しました。小林賢太郎はネタをオチから作って、遡って伏線を張るつくりかたをしているから、あれだけ緻密なことができると聞いたことがあって。

島貫:ラーメンズのコントは、片桐仁の独特な間の取りかたで生まれるリズム感が最強だと思いますね。言葉を扱うコントという意味でも、僕が書くときに意識しているリズム感との共通点もあるかもしれないです。

音楽やパフォーマンスのアーティストに友だちが多いのですが、そういう人たちってリズムに対するセンスが優れている。その影響もあると思います。彼らに対して、同時代を生きるライバルみたいな気持ちもじつはあるんですが(笑)、彼らがものを作るような感覚で、僕も文字を組み立てたい。また、世代も近い彼らが作るものや、考えていることに、いかに肉迫した文章を書けるかということは、常に意識しています。

9. 東京国立近代美術館の60周年記念Webサイトに関わられるなど、BT以外にもお仕事の幅を広げていらっしゃる印象を受けますが、具体的にお聞かせ願えますか?

東京国立近代美術館60周年記念サイト

『アサヒカメラ』2013年5月号表紙

島貫:60周年記念サイトの仕事では、美術館にさまざまなかたちでかかわる人たちにたくさんインタビューさせていただきました。企画段階から参加することができて、誰にどういう切り口で話を聞くかも自分から提案させてもらえて、楽しかったです。

あと、最近は『アサヒカメラ』やカルチャーニュースサイト「CINRA」、国際交流基金のウェブマガジン「をちこち」などに書く機会もいただいています。

他にも「文化庁メディア芸術祭」関連の仕事や、美術館のガイドブックや書籍に寄稿することもあります。あと変わり種としては、コミック誌『ヤングジャンプ』の仕事もありましたね。まさか『ヤングジャンプ』に自分の名前が載るとは思いもしなかったので嬉しいやらびっくりするやらで(笑)。美術ライターを名乗ってますけど、アイドルから元総理大臣まで幅広いジャンルの人たちに話を聞く機会があって嬉しいし、飽きないです。

ただ、美術ジャーナリズムに関していえば不満はあります。僕はたまたま『ART NAVI』を担当して、若手作家にインタビューしてその活動を紹介する場がありますが、全体としてそういう新しい世代の証言を紹介するメディアがあまりにも少ない。だから、5年後、10年後に、彼らが成長して活動の幅が広がった時の資料として、彼らの証言を残していきたい。


10. 今注目している作家や展覧会、今後インタビューしてみたい方はいますか?

島貫:展覧会に関して言えば、基本的に美術館の展覧会が好きですね。東近美の仕事をした影響もありますが、特に日本近代美術の担当学芸員と接したり、美術館の方針に触れると、彼らが背負っている歴史的な意義の大きさに感銘を受けます。歴史を前提として物事を考えるのは必要なことだと思います。過去が参照項になることで、自分が今いる位置に迷わずに済む。美術館にはそういう役割もあるのではないかと思います。また、ここ数年は戦後の日本美術の再評価と掘り起こしが進んでいるので、美術館規模の面白い展覧会が続くと思います。

一方で、最近のギャラリーの展覧会は少し物足りない印象を受けます。若いギャラリーやアーティストランスペースが増え、それぞれの特異性は感じますが、展示を見ていると、これまでの歴史を踏まえていないように見える。今この瞬間は面白くても、過去や未来に作品がつながっていくような時間的なダイナミックさが薄いように思います。

ただ、アーティストはどんどん面白い人が登場すると思います。現代は、インターネットが当たり前に普及して、子どもの頃からWEBなどのメディアを通じて、スピード感のある映像を見て育った世代が台頭してきています。彼らは情報の速さや世界の多元性を体感して育っている。そこからユニークな作品が生まれてくるのではないでしょうか。

特に面白いのは映像やパフォーマンス、音楽を扱うアーティストですね。自分の身体がないと成立しないものが多いですから、作品として形に残らないし、経済的に恵まれないことも多いと思いますが、今後ますます重要なジャンルになるだろうと思います。彼らはダイレクトに今の日本の特異な文化状況や時代性を反映すると思うので、個人的にも追い続けていきたいです。

とにかく面白い作家は無限にいると確信しています。日本の現代美術には閉そく感があると言われていますが、個々のアーティストがやろうとしていることにも、いろいろな可能性があって、僕らがそれを読みとれてないだけかもしれない。アーティストは、今の時代のなかで出てくる必然性がきっとあるはずだし、時代を軽やかに跳躍していくような作品も出てきていると思うので、僕らがそれに気付けるかどうかが、試されている状況ではないかと思います。

今は、ジャーナリストやライターが少なすぎるけれど、増えてもらうには業界自体が広くならないといけない。出来る限り多くのものを見るようにしていても、全然追いつかない。たとえ僕が面白くないと思っても、違う見かたをしている人がいるはずです。その人は、僕では気付かない何らかの魅力に気付いているわけで、それはすごく素晴らしいことだと思います。多様な見かたを持った人や、「この人を紹介していきたい」と思ってくれる人がたくさんいてくれたほうがいいと思うので、ライターがもっと増えてほしいと思っています。

『美術手帖』『ARTNAVI』
2013年6月号表紙

島貫 泰介 (しまぬき たいすけ)

shimanuki_profile

1980年生まれ。美術ライター/編集者。

 

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